どうもサクです!
先日、ブログで宣言した”やがて君になる 佐伯沙弥香について”の1巻の”5年3組 佐伯沙弥香”についての独自解釈の考察を書きます。
タイトル
とても分かりやすいタイトルがまず魅力。
”佐伯沙弥香について”というタイトルで単純に沙弥香についての本だと言うことが分かる。そして話のタイトルに”5年3組 佐伯沙弥香”を置くことで本編を読み出す前から何時の話なのかが一発で分かる。
ここまで分かりやすくするのは、時間軸が動くからでしょう。
アニメ・原作漫画では高校生の時の話で本作では小学生の時の話と中学生の時の話。
時間が移り変わる作品だと今どこの時間軸なのか分からなくなることが多い。それを無くすために分かりやすい時間描写を入れることって多いと思います。
新海誠監督の”秒速5センチメートル”とかは小学生だった主人公が高校生となり社会人となっていくので時間軸が分かりやすい。
本作の主人公の沙弥香は小学生の時から妙に大人びている。たまごっちに熱中する描写などあれば子供の時の話だとすぐに分かるけどね。(ちょっと子供の遊びの例が古いかもしれないね)
深い意味を持たせたタイトルも良いけど一発で意味が分かって本編の補助をしてくれるタイトルも良いです。
起承転結の起
大人すぎる小学生の沙弥香
「我儘なことを言うなら、自分ができる人間なのだと早々に知った。」
"入間人間 やがて君になる 佐伯沙弥香について 2018 電撃文庫 P9"
この一文で物語は始まります。まず注目すべきは”我儘”という単語。
我儘の意味を辞書で調べます。
他人や周囲などの都合や事情を考えずに、自分勝手に振舞ったり発言したりすること。
https://www.weblio.jp/content/%E6%88%91%E5%84%98 より引用
これはつまり、身勝手なことを言わせて貰うと私はできる人間なんです。ということです。沙弥香は原作でも優秀な人間として描かれています。なのでこれは子供特有の根拠のない無敵感とは違います。
小学校5年生で謙遜を使えるという優秀具合を表しています。
同じ小学校5年生のキャラクターで”ペンギンハイウェイ”の主人公の青山くんを例に出す。
彼も映画の冒頭で「僕は大変頭が良く…」と言い切っている。恐らく青山くんも成長していくにつれて「いえいえ、僕なんて頑張って努力しているだけですよ…」みたいな謙遜を覚えていくだろう。これは青山くんが遅れているというわけでは無くて沙弥香が小学校5年生にしては大人すぎるということ。
その後の文章でも、できるというのは努力が出来てそれを継続できるということ。と説明している。
大人すぎる。難しい数字を解ける、漢字を沢山覚えているなどという観点ではなくて大人な立ち振る舞いが出来ている沙弥香。
最初は高校生か大人になった沙弥香が当時を振り返っている描写という考えもありましたが習い事の数を数えていた時に”次は英会話だろうな”という書き込みがあるのでそれは無いでしょう。大人沙弥香の回想だとしたら”次は英会話だった”となるはずです。
この一文だけでここまで読み取れる内容が多いってすごいよね。本当にライトノベルなのかって思いました。
しかしやっぱり小学生でもある沙弥香
習い事である水泳に向かう前に家で飼育している猫と戯れる沙弥香。猫は嫌がって逃げてしまう。そして沙弥香は一言「残念」
猫と戯れたくなるのは別に子供っぽいことなのかと聞かれればそうでもないとは思いますけどここで小学生らしい沙弥香を描写してましたね。
逃げた猫を追いかけないのは後に予定があったとは言っても大人な対応ですけどね。しかしその後、猫と遊びすぎて水泳に送れそうにもなります。
起承転結の承
嫌なやつの対応が大人すぎる沙弥香
水泳クラブには日焼けした同い年の女の子がいます。
沙弥香とは対照的な性格。不真面目・あまり頭がよろしくない・活発。
そんな彼女のことを沙弥香は好きではありません。しかしスイミングスクールの入り口で会ったら挨拶はするし感情を表に出したりしません。
沙弥香の気持ちを知ってか知らずか彼女は沙弥香に好意的に接します。
「スクールで一番熱心なのは佐伯さんだよね」
"入間人間 やがて君になる 佐伯沙弥香について 2018 電撃文庫 P13”
と彼女。
それに対する沙弥香の返答。
「そうかもね。で、一番不真面目なのはそっち」
"入間人間 やがて君になる 佐伯沙弥香について 2018 電撃文庫 P13”
ちょっと憤りを感じている沙弥香。返しがちょっと冷たい。一番不真面目なのはあなたと言わずそっちと返す。
自分の名前の漢字を書きとり練習をする沙弥香
暑い時期の休み時間。
暑さを言い訳に外で遊ばないで教室で漢字の書き取り練習をする沙弥香。練習している漢字は自分の名前の佐伯沙弥香。色々言い訳をして外で遊ばないことを正当化する沙弥香はかわいいなと。
自分の名前の漢字を練習するシーンの意味を考えたのですが、沙弥香の自己形成とかアイデンティティの部分の隠喩なのではないかと。
このシーンの最後に
「頭の中に浮かぶ名前は、まだひらがなだった。」
"入間人間 やがて君になる 佐伯沙弥香について 2018 電撃文庫 P22”
まだ沙弥香のアイデンティティのようなものが出来上がってないということでしょうね。それにこのシーンでは沙弥香が将来のために今はとにかく勉強を続ける。友人と遊ぶのも断って勉強することに対して疑問を抱き始めている描写があって良い。
沙弥香に合わせようとする彼女
次にスイミングスクールに来ると不真面目な彼女はエントランスに置かれている傘などを弄って落ち着きがない状態で待っている。
ここの描写は彼女が沙弥香に好意を持っていて会う前は落ち着かないという描写なのか、それとも傘などに特別な意味が含まれているのか分からない。恐らくそんな深い意味はないと思う。
その後、沙弥香に不真面目なところが嫌いと言われる彼女はそこを直すと言う。好きな相手に合わせる高校生の時の沙弥香。そういった行動の元が彼女から来ているものなかなとか思ってみたり。
悪いところを直すことにした彼女がポロっと言います。
「ふぅん……私、周りってあんまり気にしないからね」
"入間人間 やがて君になる 佐伯沙弥香について 2018 電撃文庫 P26”
彼女が不真面目で周りの人が迷惑していることを伝えてあげる沙弥香に対する返答。あんまり理解できていない彼女はこう返します。
沙弥香は心の中で”じゅあ何で私に嫌われていることは気にするんやろなぁ”みたいなことを思います。もちろん関西弁は使ってません。
ここのシーンはさらっと過ぎていきますが、良いですよね。彼女にとって沙弥香は特別な存在であり好意を抱いてるとしっとり表現されてます。
先を歩いてくれる存在
ルールを守った水泳一本勝負。真面目歴=年齢の沙弥香 VS 真面目歴1時間の彼女
結果、沙弥香は負けます。運動が得意ではないけど積み重ねてきた沙弥香を上回る彼女のクロールに完敗。
高校では自分の先を歩いてくれるという理由もあって燈子に恋した沙弥香。やはりここでも自分の先を歩いてくれる彼女に惹かれはじめる。
その後、彼女の話に疑問形で返したりして明らかに興味を持っている。彼女の将来のことを考えて勉強ももっと真面目にやった方が良いというアドバイスを返したりなどなど。
少なくともこんな近くに、自分の先を歩いている存在がいることさえ気が付かなかった
"入間人間 やがて君になる 佐伯沙弥香について 2018 電撃文庫 P50”
この一文は起承転結の転の部分ですが、ここで取り上げます。
水泳で完敗した沙弥香ですがそういった意味で彼女は先を歩いているという意味ではあないでしょう。水泳のことに関しては負けても努力をして追い越そうとしています。誰かを好きになることを知っているのが先を歩いていることなんですね。
この一文の前に沙弥香は彼女が自分に恋愛感情を持っている事を知ります。
起承転結の転
告白される沙弥香
kindleでポピュラーハイライト(みんながハイライトしている部分が分かるkindleの機能)でも登録されていた一番盛り上がるであろう彼女の発言。
長いので引用は避けますが、とにかく彼女は沙弥香を見ると手のひらと体だが熱くなるんだーみたいな内容です。彼女はそれが恋ということは気が付いていませんが沙弥香は分かっています。
怖くもなってくる沙弥香
彼女が自分に恋愛感情を持っていると知った沙弥香は色々考えることになります。ストレートに何だか彼女が怖くなってきたとも書いてあります。
水泳に関しては才能で先を歩いてくれるという彼女は沙弥香が惚れる要件のひとつを持っているのに何が怖いのか。
彼女はそれが恋だというところまでは考えが到達していませんし沙弥香に恋することをあんまり深く考えていないでしょう。周りをあんまり気にしないという性格もあるのでしょう。
しかし沙弥香は賢い、というか色々知ってしまっている。
「でも理解が早いということは、臆病になるということでもある」
"入間人間 やがて君になる 佐伯沙弥香について 2018 電撃文庫 P32”
沙弥香が彼女に告白をされる前に祖母からかけてもらった言葉。沙弥香が偉い子だと称賛しながら少し意味を持たせたように言ったこの言葉。後になって意味が出てくる言葉です。沙弥香は理解が早い、賢いため色々考えてしまう。
女の子同士で恋愛をすることによる周りの視線、恐怖など。
その気持ちが良く表れているのが沙弥香が彼女と一緒にスイミングスクールに入った時に受付のお姉さんに仲が良い2人だと思われて微笑まれた後の沙弥香の気持ちの一文。
「……仲良しと誤解されていそうな気がした。それは、違う。少なくとも笑って眺めていられるような友達では、お互いに留まれないように思えた」
"入間人間 やがて君になる 佐伯沙弥香について 2018 電撃文庫 P54”
この一文もさらっと流されていますがとても意味があります。
少なくとも笑って眺められないお友達 = 女の子同士の恋愛関係
お互いに留まれないように思えた = 沙弥香も少なくとも彼女のことを友達以上の存在だと思い始めている。彼女から一方的に好きなのではない。
知りたくなってしまう沙弥香
沙弥香はもやもやした言葉に出来ないような彼女に対する気持ちを感じながらもスイミングスクールに通います。(P51 )
ここの描写は沙弥香が今まで積み上げてきた勉強、努力を重ねれば結果が出るようなものでは理解できない誰かを好きになる気持ちに戸惑うのが表現されてて良いですね。
怖さも感じていた沙弥香ですがやっぱり気になってしまう。彼女のことがね。
前までいつも視線を送られていた彼女を今度はこっちから彼女を目で追うようになります。
起承転結の結
といっても沙弥香のことが前から大好きな彼女。沙弥香に上手に泳ぐコツを教えようとして体が再び熱くなって沙弥香から一時的に距離を置きます。
スイミングスクールの時間が終わってもプールに浮かんでいます。そんな彼女がなぜプールに残ったままなのかを唯一知っている沙弥香。
色々知りたくなって彼女に物理的に急接近。我慢できなくなった彼女は沙弥香の首筋にキスをしてしまいます。
なんで口ではなく首筋なのかはちょっとわかりません。単純にいきなり口はちょっとねということなのかそれとも何か特別な意味があるのか…。
恐怖を感じていた関係性や気持ちがキスによって一気に発露。びっくりした沙弥香は逃げ出します。
家に走って帰った沙弥香は終始恐怖感に襲われますがそれは急にキスをしてくる彼女に対する恐怖というか恋愛に落ちる恐怖というのが強いでしょう。
そして自分の気持を整理することは出来ず、女の子と恋をするということはとりあえず蓋を閉めてスイミングスクールから逃げ出します。
両親にスイミングスクールに行くのを辞めることを認めて貰った沙弥香は部屋に戻ろうとします。しかし廊下でふと自分の手に触れます。
「そこには夏から独立した、私だけの熱が灯っていた」
"入間人間 やがて君になる 佐伯沙弥香について 2018 電撃文庫 P32”
つまり沙弥香も恋愛というものを少しは分かり始めてきたのだと思います。最後の涙を流すという描写のための言い回しが最高ですね。
最後に
自分が書いた考察では一番長文です。
そんなに長くない話でこれだけ考えられるシーンが多いこの本は本当にライトノベルなのか。
本当はまだまだ書きたいことはあるのですが全部書いているとほぼすべての分を引用しないと…それは引用ではなくなってしまうのでぜひ皆さんも読んで欲しいなと思います。